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2012年6月10日日曜日

Nothing is Told

先日、あるマーケットで、背中を丸め・・・腰の曲がってる一人の老人を見かけた。

休憩用の椅子にすわり、マーケットでペットボトルのお茶と、ビスケットを買ったんだろうね。

それを食べてたよ。

くしゃくしゃのビニール袋を持って、ビスケットがボロボロとこぼれないよう、

食べかすを受け止めていた。

きっと公共の場を汚さないような配慮なんだろうね。

俺のオジサンに似てる。

顔が似てるんじゃなくて、雰囲気。

グレーのワイシャツを、タックの入った、昔のスラックスにギュウギュウ押し込んで・・・



とにかく目立たない。

なんとなく、旋盤工かな? と思った。

俺のオジサンに似てるから。






旋盤工は、目立たない仕事。

でも、昭和30年代の旋盤工がいなければ、今の「日本」もないだろうな。

それほど、当時の職人は「日本」に貢献していたんだと思うよ。



水道を捻ると水が出てくる。

オジサン、よく言ってた。

「川口の職人たちが、水道管を作ってた」って。

鋳物の水道管のこと。

それを加工していた。

国のためにやってたんだね、仕事を。

仕事が好きだったな、オジサン。



儲かっても、うまいモン食うわけでもなく、

儲かっても、うまい酒呑むわけでもなく、


全部、機械とドリルなんかに消えたって。


その機械とドリルが今うちにある。


椅子に座ったオジサンは、ゴミを片付けると、

杖をついて立ち上がり、何も言わず歩いていった。


もう、きっと、今の日本には必要無い人なんだろうな。

ゲンパツ直す人とか、経済を立て直す人とか、

そういうのをどうにかできる人が必要なんだろうな。



本当に、もう、オジサンは今の日本にはいらないのかな。



帰りがけ、歩いていたら、オジサンに追いついた。

声をかけようかと思って、オジサンを追い越して振り返ってみた。

オジサンの杖をつく、右手の人差し指が無かった。

ぼくのオジサンも、人差し指、無かった。


月月火水木金金、高度成長期に朝から晩まで「仕事」をがんばった末に、

自分と、日本の未来と引き換えに失ったのかな、人差し指。


その無くした指を見た瞬間に、なんか、わかった気がして声をかけるのをやめました。


老兵は死なず?

いやいや、まだまだ教えられることいっぱいあります。現役ですよ。


オジサンの、あなたのその背中は、今でも僕の未来に多大なる影響を与えています。

やる気っつーの? そういうのが出てくるんだよなぁ。

やったるぞぉ ! みたいな・・・


ぼくは誇りに思うよ、オジサン。


 Nothing is Told


語らずとも、オジサンの丸まった背中は何か言っているようで・・・